胃カメラを受けに行ったら軽く死にかけました(後編)
前回のあらすじ
とうとうやってきた胃カメラ検査当日。プレッシャーと絶食によるストレスで心身はほぼ壊滅していた……しかし男は挫けなかった。
「ひょっとしたらめちゃくちゃエッチな女医さんが担当するかもしれへん」というを希望を胸に抱き、ついに診察室へと入った。そこで男が見たものはーーーーーーーーーー
えげつないマッチョでした
続き
扉を開けた先で待っていたのは、食物連鎖の頂点に君臨する究極生命体「マッチョ」
ただの見掛け倒しでは無いということがひと目でわかるほどのガタイ、逆らったらワンパンで殺られるであろうモリモリの腕筋。
彼こそがまさにThe King of マッチョ。
正直Sっ気のあるお姉さんが出ることはまぁ無いかな〜〜〜〜〜とは思っていましたが、ここに来てまさか Dr.マッチョ が出てくるとは思ってもいませんでした。オーマイ…
先「今回担当させていただきます。戸室(仮名)です。今日はよろしく」
僕「あ、は、はははは、はい。よろ、よろしく、お、お願いし、しまチュ」
嗚呼…なんという重圧…なんという恐怖……!
僕はこの時、人間という生き物がとてつもないマッチョを前にすると身動きや呼吸すら自由に取れなくなるということを見に知りました。
あまりの恐怖にオシッコを5Lほどちびってしまったことはナイショです。
産まれたての子鹿のようにプルプルと震える僕に先生は言います。
先「そんなに怖がらなくても、今回の胃カメラは口からじゃなくて鼻からするんで、かなり楽っすよ」
僕「え、あ、ははっ、そそそ、そうなん、すね。ほ〜〜〜〜ん(あんたが怖いんだよ)」
このときまで僕は胃カメラといえば口から入れるものだとばかり思っていましたが、やはり直接口にカメラを突っ込むという行為は拷問に等しいそうです。
例えば、喉の奥に指を突っ込んだら「オェッ!」てなるじゃないですか。想像してみましょう。もしあれがずっと続いたらどうなるか?
死にます。
それに対し、鼻から胃カメラを入れるとどうなるか?
COOL
カメラがそのまま食道へと直線的に入るため、通常の胃カメラと比べると喉にかかる負担がかなりマシになるそうです。患者の苦しみを少しでも軽減させようという素晴らしい配慮ですね。
これならちょ〜〜〜安心!
しかしここであるひとつの不安が脳をよぎりました。
皆さんはインフルエンザの検査を受けたことがありますか?
鼻の穴にめっちゃ長い綿棒みたいなやつを突っ込んでほじくりまくるアレです。あのめっっっっちゃ痛いやつ。
僕はアレが死ぬほど嫌いなんですが、今回鼻に突っ込むのは胃カメラ。その長さや太さは綿棒の比ではありません。そんなものが鼻に突っ込まれるとどうなるか?
ご臨終
恐らく鼻に入れた瞬間、
「あかん!!!こんなんデカすぎるやろ!!!!!もうええわ!!!!!ほな、ありがとうございました〜〜〜〜」という断末魔を上げながら死ぬに違いありません。はい。
僕「…と思ったわけなんですけど、鼻めちゃくちゃ痛くなりませんか?」
先「あぁ…それについては麻酔を飲んでもらうから大丈夫だねぇ」
ホッ……ちゃんとお鼻のことも配慮されているようで安心しました!
ViVA!医療技術!
どうやら麻酔は針で刺すものではなく、片方の鼻の穴に直接ぶち込むジェル状の言わば塗るタイプの薬に近いらしいです。これも優しい。
「ちょっと不味いのと、鼻がピリピリするけど我慢してください」 と言われましたが、昔からセミとかゲテモノばかり食ってきた舌壊人なのでそこの心配はいらないでしょう。つまり、無敵です。っしゃおらバッチこ〜〜〜い
自信と安堵に充ちた僕の顔を見て、先生は麻酔を持って言います。
医「それじゃあ、入れていくよ」
僕「よしこい」
先生が僕の左の鼻の穴にジェル状の麻酔を入れました。ドロッとした感覚が鼻の中を伝ってきます。でもまあ、この位なら大したことはないですね。余裕余裕!
僕「もうちょっとキツいのを想定してましたが、これだったら全然大丈夫そうな気がし
ま
マズッッッッ!!!!!!!!!!!
この世全ての苦味をかき集め、2日間煮詰めかのようなとんでもない苦さがズドシャーーーン!!!!と口の中を襲いかかってきた……!!!!
そして、ピリピリとかいう次元を通り越してズキズキと突き刺さるような痛みのダブルラリアット……痛い!!痛い痛い!!!!!痛い!!!!!!!!!!
これは……アカン!!!!!!
…
先「……死んだか」
僕「生きてます」
勝手に殺さないで頂きたい。麻酔で死ぬとか最悪でしょ。オイラ負けないよ。
とはいえ悶え苦しむ中で何度か三途の川を渡りかけたのは事実です。
川の向こうで以前亡くなったウーパールーパーのイモトが手を振っていましたが、「お迎えに来るのがウーパールーパーだけって人望なさすぎでは???」という念が払いきれず、そのおかげか三途の川を渡らずにすんだようです。ゴメンなイモト。
僕の生存を確認した先生は「やるねェ」とだけ言い残し、ついに胃カメラを手に持ちました。しかし、それを見た僕は「あぁ、やっとか…」と思うだけ。そこに恐怖心はありません。
覚悟の準備は既にできてます。来いよベネット。
さぁ、その胃カメラを早くオイラにぶち込んでおくれ
そう思いながら先生を見つめました。
「いくよォ」
(アカンわ)
ジョロロロロロ〜♪という軽快な音を立てながら、またしてもオシッコを漏らしてしまいました。森の中でヒグマに遭遇した人の気持ちってこんな感じなんだろうなぁ
…
ついに胃カメラくんが挿入されました。ですが違和感は無く、気づいたら入ってた位のもので「なんか思ってたのと違うな」というのが最初の正直な感想でした。
あと麻酔が効いてるお陰か、鼻の痛みに関してはほぼゼロ。あまりにスムーズに突き進むので案外ラクに終わっちゃいそうだなぁと思っていました。
この時までは。
スルスルと鼻道を通り抜けノドの手前にまで到達した胃カメラくんは今回の目的地、胃へと狙いを定めその場でストップ。
食道を一気に駆け抜けようと喉元で準備を整えるその姿は、まさにトップアスリートのクラウチングスタートの如し。
Set…
そして狙いが定まり、足元に貯めたありったけの力を一気に解放するッ……!!!!
GO!!!
ァ"(胃カメラが喉に刺さった音)
「オ"ァ"ァ"ァ"ァ"ーッーッ!!!!」
ウ゛ホ゛゙゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!
オエッ
胃カメラがノドにぶっ刺さったその刹那、えげつない量のヨダレがジワジワと大量に溢れ出てきました。
温泉のように湧き出すそれは止まることを知らず、しかもそれを「絶対飲み込まないでください」と言われたのでただ垂れ流すことしか出来ません。
…人間は一日に1.5Lものヨダレを出すと言われていますが、この時の僕が出したであろうヨダレの量は恐らく琵琶湖1つ分。すげぇ汚いの。
……
数分経つとようやくよだれの量も収まり、気持ち悪さもかなりマシになりました。
それにしても人間の順応速度とは凄まじいもので、異物でしかなかった胃カメラもだんだん身体の1部のように感じてきました。今ではもはや愛着すら湧いてきます。おぉ〜ヨチヨチ♡
そこで僕はふと思いました。
もう胃カメラの難所を全て超えたのでは?
「激痛と苦味の鼻麻酔」 「胃カメラくんのノドへの侵入」 この2つを超える苦しみなんてもうこれ以上考えられません。頼むから無いでくれ。
そう願っていると先生が僕に尋ねました。
先「今から胃に少しづつ空気を入れていくけど大丈夫だね?」
どうやらより正確に検査するために胃カメラから空気を排出して無理矢理胃の中を広げるらしいです。胃を圧迫されることはかなり辛いことでしょうが、少しづつ入れてくれるなら安心です。
僕「はいらいひょうふへふ(はい大丈夫です)」
僕の返答を聞いた先生は優しい顔で答えます。
先「よし、それじゃあ」
「80%からいくか!!」
(少しづつとは…?)
すると突然、「シュポォーーーーーー…!!!!」という音と共に胃カメラから容赦なく空気が排出されてきました。
ちょっとずつもクソもなくえげつない量の空気が一気に押し寄せてき、空っぽだった僕の胃は風船のようにドンドンと膨らんできます…!ングォオオオォォン……!!(悶絶)
さて、突然ですがクイズの時間です。人間は腹のなかにガス(空気)が溜まるとどうなるでしょう?
答えは簡単。
どえらいオナラしたくなる
溜まりに溜まった空気は出口を求め胃から小腸、そして大腸へと進軍してきます。
ここが我が家なら僕もなんの気兼ねもなく、充実した放屁・ライフを満喫できるのですが、そうは問屋が卸してくれません。
何故ならここが病院だから。
もしここで放屁してしまえば、おしりから放たれた超高圧ガスで病院その物が吹き飛んでしまうでしょう。
大変だ!!!!!!!!
僕は必死で肛門を塞ぎ、一気に放たれんとするソレを抑えます。いまこの病院にいる全ての人間の運命が僕の肛門に託されている……耐えろ僕のおしり……!頑張れ頑張れ……!!!ウオォォオ……!!!
僕「ウオォオオアンンン…!!!!」
先「どうしたい?胃が痛むのかい?」
僕「チ、チガッ…ウッ……!」
先「どこが痛むんだい?」
僕「オ、オ…オシ………」
先「おし?」
僕「…オシリス!!!!」
…
それから数分後、胃の中をくま無く検査した胃カメラくんはついにその使命を終え、僕の体内から引き抜かれました。
一方その頃の僕はと言うと、身体中汗まみれで目の前にはヨダレの湖ができており、この数分間で自分がどれほど悲惨な目にあっていたかを痛感していました。あとめっちゃオナラしたい。
全く関係ありませんが出産後の妊婦さんってこんな感じなんじゃないかなぁって思いました(のんき)
僕「……終わりましたか??」
先「はい、お疲れ様でした」
僕「僕の胃は大丈夫でしたか?」
先「検査結果が出るまで1週間かかるので今はまだ分かりません」
僕「うわめちゃくちゃ不安になるやつだ」
どうやら今すぐ何かがわかるという訳でもなさそうなので、今日はおとなしく帰りましょう。早く帰ってオナラがしたい。
先「すみません、でもこれだけはハッキリ言えます」
僕「え?なんですか???」
先「痩せなさい」
……
僕「すみません……」
まさか検査直後に胃の状況とかじゃなくて、メタボリックの危険性を指摘されるとは全く考えていませんでした…トホホ……;;
僕「というか、それだけですか???」
先「はい、それだけ」
僕「ということは、もう帰っても…?」
僕「ありがとごじゃいまちた」
こうして胃カメラを終えた僕は先生に別れを告げ、会計へ向かいました。
〜会計にて〜
看「お疲れ様でした〜合計〇△円です」
僕「はい、どうぞ。疲れた…」
看「胃カメラってホント辛いですよね〜私も初めて受けた時、気持ち悪すぎて思いっきりゲロ吐いちゃいましたもん。オエェェッ!!!!って笑」
僕「えぇ…」
いきなりのカミングアウト・ゲロに流石の僕も少し困惑してしまいました。生憎ヨダレも尿も溢れ出るほど出しましたが、流石にゲロだけは吐きませんでした。
僕にも人としての尊厳ってもんがありますからね(笑)
それからは「鼻からだろうと辛いもんは辛い」だとか「麻酔が不味すぎる」とか「マッチョが怖い」といった他愛もない胃カメラトークを楽しんでいましたが、その時自分の目頭が熱くなっていることに気づきました。
「あぁ…やっと終わったんだなあ」という実感と、「こうして誰かと馬鹿な話するのも久しぶりだなぁ」という懐かしさが心の奥底からジワジワと湧いてきます。泣けるゼ……
安心からか、全身の力がスゥーっと抜けていきました。
そう言えばなんか忘れてる気がするゾ
看「いやぁそれが前日何も食べてないもんだからめちゃくちゃクリーンなゲロでびっくりしちゃって!こんな状態じゃお腹に空気なんて入れられないって胃カメラは中止になったんですけど笑」
僕「あっ!!!!」
看「はい!どうしましたか?」
僕「マジですみません」
看「???」
僕「オナラします」
看「え」
ボバーーーーーン!!!!!
……